イェール大名誉教授「"日本財政は破綻寸前"はウソと断言できる理由」財務次官論文はフェイクニュース
財務官僚に騙されるな
日本の財政赤字は世界最悪な状況であるから、コロナ禍による経済活動の低下に対して政府の財政出動で国民を救済していては、政府は破産してしまう、とよく反対される。政府は長年、財政赤字の数字を喧伝し、多くの国民に加えて、経済学者でさえ財政危機を信じている。英語の経済の教科書にすら、日本経済の特徴について、政府の財政赤字が大きく取り上げられている。
「文藝春秋」11月号に、財務省の矢野康治事務次官は、日本の財政赤字(一般政府債務残高÷GDP)は250%を超えており、世界各国に比べて傑出して高い。コロナ禍で生活が苦しい人が発生している非常時であっても、給付金などの「ばらまき」は反対で、税収に対して歳出が上回る「借金」は許せない、という論文を発表した。まさに現役のトップ官僚が、分配という福祉重視を掲げる岸田内閣の基本路線を総選挙前に批判したため、同論文は注目を集めた。
借金ばかり強調して資産は隠蔽する
しかし、矢野次官の論文はいわばフェイクニュースである。矢野次官が言う、日本政府の財政赤字は世界最悪という根拠が、財務省もそのメンバーであるIMF(国際通貨基金)の統計を見ると、まったく正しくないことを示したい。
図は、世界の主要国38カ国の政府が持つ資産と負債のGDPに対する比率を示している。
「日本は借金漬け、財政破綻しそうだ」と財務省がいう根拠は、日本国民が毎年創出する付加価値であるGDPに比較して、国債残高が急増していることに基づく。確かに、図の◆で示す政府債務(GDP比)率は、ここに掲げた国で日本が際立って大きい。
しかし、企業や個人が借金しすぎるというとき、年収(厳密には異なるが国でいうGDP)だけに注目するであろうか。借金をするとき、バランスシート上は、債務を負っても同時に資産を持つということになる。図で示すとおり、日本政府は債務も大きいが、資産も大きい。
一方で、図の最も左に示すポルトガルは、資産も大きく保有しているが、債務が資産に比べてずば抜けて大きいので、GDPに比した債務の比率が高くなる。従って、確かにポルトガルは大債務国と言える。
財政の健全性は純資産で見る
日本は国債残高が大きいが、ポルトガルとは異なり、外貨などの金融資産を多く持ち、非金融資産、つまり公共の建物、港湾、道路、森林など実物資産も多く持つ。財務省は政府債務(GDP比)を比較して日本は破産寸前だというが、増税して権限を強くしたいがための詭弁と考えられる。
財政の健全性をより正確に測るには、政府の純資産(総資産から総負債を引いたもの)によって測られるべきなのである。図でいえば、日本の純資産はほとんどゼロであり、他国と比較しても健全と言える。
民間で例えて言えば、日本は多くのローンを借りて土地などの資産を多く持つお金持ちというにすぎず、「日本政府は破産寸前」とは言えない。「タイタニック号が氷山に向かって突進しているようなもの」などと、矢野次官は日本の財政状況を例えたが、誇大妄想の限りである。
正しい理解で洗脳から目覚めよ
財政均衡論者からの反論として、実物資産(金融資産以外の資産)を考慮することに対しては、例えば道路公団は道路を売れないという批判を聞く。しかし、有料道路からは道路料金の収入があり、国債の金利の資金はそれで賄える。「日本の国債残高は世界最悪であるから、増税してプライマリー・バランスを均等化せよ」という財務省、財政均衡論者の主張は、前提が間違っているのである。
ところが財務省は、この誤った理解のもとに、国民や経済学者、エコノミストに対して、「政府も民間主体と同じように財政収支を絶えず均衡化せよ」という論理を当然として議論を進める。
0 件のコメント:
コメントを投稿