https://gentosha-go.com/articles/-/42000?per_page=1
新型コロナ不況への対応で、国の財政赤字が巨額に膨らんでいます。アルゼンチンやギリシャは財政破綻しました。日本の借金は過去最大の1220兆円に上ります。なぜ日本は財政破綻しないのでしょうか。元内閣官房参与の藤井聡氏が著書『なぜ、日本人の9割は金持ちになれないのか』(ポプラ新書)で解説します。
【関連記事】子育て世代はもう限界だ!「日本人の給料が上がらない」理由
日本の借金は過去最大の1220兆円に上る
■国民は財務省のつくり話にだまされている
――藤井先生、岸田総理は真っ先に数十兆円規模の経済対策を実施するとおっしゃっていましたが、大丈夫ですか? 日本はバブル崩壊後から、ずーっとひどい財政赤字なんですよね。政府も政治家も経済学者もマスコミも、「日本には大量の借金があって、このままなら破産する!」といい続けています。
さらに、新型コロナウイルス対策で赤字が膨らんで、2021年6月末時点では、「国の借金は過去最大の1220兆円、国民一人当たり992万円になる」と報道していました。だから政府は大金を出したくても出せないんじゃないですか?
藤井 いいえ、出す気になりさえすれば、出せます。彼らのいってることは、真っ赤なウソなんですよ。
――えっ、どこがウソなんですか?
藤井 全部。1から10まで。何もかも。どれだけ、この一連のウソにだまされている人が多いか。それがコロナ対策にも、大きな弊害をもたらしています。たとえば給付金にしても、政府が出そうと思えばまだまだ出せるんですよ。でも、文句が噴出しないのは、ほとんどの国民がこのウソにだまされているからです。
――10万円給付が決まったとき、私も友人たちも日本は財政難なのに構わないの? と心配したくらいでした。それでも私はしっかり給付金をいただきましたけど、友人のなかには遠慮して給付金の申請をしなかった人もいました。
藤井 すっかりだまされていますね。まず、「国の借金」という表現からして間違いで、正しくは「政府の負債」です。「国の借金」っていうと、私たち国民も借りているような錯覚に陥りますが、完全な間違い。そもそも「国」のなかにはいろんな人、主体がいます。私たち国民もいれば、いろんな会社もあります。
そして、それらとは全然別の存在として「日本政府」というものもあるわけです。マスコミなんかでいわれている「国の借金」とは、国でも国民でもなく、「日本政府の借金」のことなんですよ。日本銀行の資金循環統計でも、「政府の負債」と書かれています。「政府」が借りているのが「政府の負債」であって、「国の借金」でも「日本の借金」でも、ましてや「国民の借金」でもありません。
――それならなぜ、「国の借金1220兆円」とか「国民一人当たり992万円」などと喧伝するのですか?
藤井 詳しいことはおいおい説明していきますが、財務省は小泉純一郎政権のころから、何よりも「政府の負債」を減らすことに血道を上げているんですよ。なんといっても財務省は、政府という一つの組織の金庫番だからです。いわば彼らは、政府という法人の経理部さんなんです。日本国家「全体」のことを考えているのではなくて、単に自分が働く「政府」という組織の財布のことだけを考えている人たちなのです。
要するに、彼らは自分の組織のことだけを考えて、国民や国全体のことなんてな〜んにも考えず、新聞社や通信社、テレビ局の記者たちが常駐する財務省内の記者クラブ「財政研究会」を通じて、記者に資料を配り、政府の負債を「国の借金」と呼ばせて、国民感情をあおる。これが、財務省のプロパガンダ、つまり政治的な意図を持つ「宣伝」です。
記者は疑うどころか、新聞によっては政府の負債をわざわざ日本の人口で割って、「国の借金1220兆円、国民一人当たり992万円!」と見出しをつけたり、「日本は借金まみれで財政破綻する」などと、まことしやかに書き立てたりする。大半の政治家や経済学者も、口をそろえて「このまま借金が膨らむと日本は破綻する」と主張してきた。「嘘」とは「真実でないこと」という広辞苑の定義に従うなら、彼らはみんな、ウソつきなんですよ。
――そんな! いったい、どうしてそんなデタラメがまかり通っているのですか?
藤井 一言でいえば、財務省が天下を取っているからです。国会が持っているはずの予算決定権を実際は財務省が握っている。大雑把にいえば、「財政=政治」って側面がありますから、財政を抑えられると、政治家はやりたいことが何もできなくなるんです。
しかも、財務官僚は自分たちの主張を国会議員に繰り返し「ご説明」に上がります。国会議員の先生たちはたいてい財務省のいいなりです。さらに、財務省は自分たちに都合のいいことを唱える経済学者を集めています。つまり彼らは財務省のお先棒をかつぐ「御用学者」なんですよ。
そういう政治家や学者や記者たちの報道が世の中にあふれると、人のいい国民は、「どうにかして借金を減らさないと、日本はめちゃくちゃになる。将来世代にツケを回してはいけない。消費増税も仕方がないか」と思い込んでしまう。その結果、財務省の「増税路線」に抵抗することができなくなってしまうんですね。そうして、意図的につくり上げられた「財政破綻論」に、多くの国民がまんまとだまされてしまうわけです。
「円建て」国債の日本が財政破綻しない理由
■日本政府が財政破綻することはあり得ない
藤井 ご存知のように、日本の政府は「国債」を発行して、資金を調達しています。国債には「返済期限」が決められていて、政府はその期限が来たら利子をつけて、国債と引き換えにおカネを返済します。こう聞くと、まさに「借金」なのだから、その返済のときに政府の手元にそれだけのおカネがなかったら、「破綻」しちゃうじゃないか!? とみなさんは普通に考えるのだと思います。
しかし、政府が借りているのがドルやユーロではなくて「円」である限り、そんなことは絶対に起こらないのです。なぜなら政府はいつでも、どんなときでも、「円」であるならば、どれだけでも用立てることができるからです!
――えっ、どうしてそんな離れわざができるのですか?
藤井 理由を一言でいうなら、そもそも「円」を発行しているのは、他の誰でもない「政府」だからです。だから必要なときに、いくらでも「自分」で円を発行して、円を用立てることができる。
もうちょっと厳密にいうと、政府には「通貨発行権」があります。その権限を行使すれば、いくらでもおカネをつくり出すことができるのです、円である限りにおいて。
もっと具体的にいうなら、次のようになります。
まず、10円玉や500円玉などの硬貨は、文字通り政府が実際につくり出しています。だから、借金返済のときに500円玉を大量につくって返してしまうということも可能です。また、やろうと思えば、100万円玉、1000万円玉なんて硬貨を、政府が政府の権限を使ってつくり出し発行して返してしまう、ということもできるわけです。
一方、1000円札や5000円札、1万円札などのいわゆる「お札」は、正式には「日本銀行券」と呼ばれるのですが、その名が示しているように、「日本銀行」という日本の中央銀行がつくり出したものです。
この「日本銀行」というのは、普通の銀行と全然違って、「銀行の銀行」ともいわれるように銀行それ自体におカネを貸し付けるというスゴい権限を持っています。何よりスゴいのは、彼らが「おカネを自分で何もないところからつくり出して、そのつくり出したおカネを貸し出す」という行為です。わかりやすくいえば、「お札を刷って貸し出す」ということ。そもそも、そういうことができる仕組みになっているわけです。
で、お札をどれだけでも好きなだけつくり出せる日本銀行という存在は、実は、政府の「子会社」なんです。日本銀行は株式を東京証券取引所に上場しているのですが、株式の55%を保有しているのが日本政府です。しかも日本銀行法という法律の第四条には、政府から完全に独立した振る舞いをしちゃだめだ、ということも明記されています。
つまり、政府は子会社の日本銀行を使って貨幣をつくり出すことができる。これをしっかり、覚えておいてください。簡単にいえば、要するに「政府は、おカネをつくり出すことができる」ということなんです。
――へえ〜、初めて聞きました。
藤井 「財政破綻論」を信じ込んでいる人のほとんどは、この事実に気づいていません。だいたい「政府の借金」と「家庭の借金」を同じように考えてしまうことが間違いのもと。政府の財政は、家計とは全く違うのです。
当然ですが、私たち個人や民間の会社はおカネをつくることができませんよね。もし私たちが借金をしていたら、一生懸命におカネを稼ぐか、誰か別の人に頭を下げておカネを貸してもらうかして、返済しなくてはならない。しかし、政府にはその必要はありません。なぜなら、さっきからいってるように自分で貨幣を発行することができるからです。したがって、政府が借金で破綻することなど、あり得ないのです。
ちなみに、「日銀と政府は別の存在じゃないか、日銀は独立してるだろ!」という人もいますが、仮にそう考えるにしても、政府は子会社の日銀からいくらでもおカネを借りることができるので、破綻することなんてあり得ない。というわけで、結論は何ら変わりません。この点は、あとでもう少しお話ししますね。
ギリシャの政府の負債は「ユーロ建て」だった
■アルゼンチンやギリシャが破綻した理由
――でも、アルゼンチンやギリシャは財政破綻したじゃありませんか。だから日本も危ない、と思っている人は大勢いますよ。
藤井 全くの思い違いです。日本の国債は、自国通貨の「円」建てです。外国もごくわずか日本の国債を持っていますが、それも含めて円建てですから、政府の借金は「100%日本円建て」。
しかしアルゼンチンは、自国通貨ではない「アメリカ・ドル建て」国債を売って、外国から借りていたおカネを返済できなくなったために財政破綻に追い込まれたんです。その3年前、1998年にロシアも財政破綻していますが、同じく「アメリカ・ドル建て」の負債でした。アルゼンチン・ペソ建てでも、ロシア・ルーブル建てでもなかったのです。
2015年にギリシャの財政が破綻したのは、政府の負債がEUの共通通貨「ユーロ建て」だったからです。ユーロを発行できるのは、欧州中央銀行だけ。自国通貨発行権を持ち、「100%日本円建て」国債を発行している日本のように、政府がおカネをつくって借金を返すなどということはどうあがいてもできなかったわけです。
何度でもいいますが、政府が自国通貨建ての国債で破綻することは、事実上、あり得ません。歴史上、自国通貨建ての借金を返済できなくなった国は存在しません。
アメリカがドルで借金しても、中国が元で借金しても、日本が円で借金しても、返すときに政府の力でおカネを調達することができる。どんな国でも、政府が自分の国の通貨で借金している限り、政府はいともたやすくおカネを調達して返済することができるのです。
繰り返しますが、なんといっても中央政府は、その国の通貨を発行する権限、つまり通貨発行権を持っているのですから。自分で簡単におカネをつくり出して借金を返すことができるのに、借金で破産するなんてバカはいないでしょう。だから自国通貨建ての借金で破綻してしまったなどというマヌケな政府なぞ、存在するわけがないのです!
財政破綻論をつくり出した当の財務省ですら、ホームページにはっきりと、「日・米など先進国の自国通貨建て国債のデフォルトは考えられない」と書いています。この「デフォルト」というのは債務不履行を意味する言葉です。「国債の債務不履行は考えられない」ということは、要するに「日本政府が国債を発行してつくった借金を返せなくなって破綻することはあり得ない」ということなんですよ。
――えーっ、信じられない。きっと、デフォルトなんて書いても、国民は見ないだろうし、見たって意味がわからないだろうと高をくくってるんでしょうね。腹立つ〜。
藤井 財務省もそのように明確に公言しているのですから、自国通貨建ての国債を発行している日本政府が国債を発行してつくった借金を返せなくなって、ロシアやアルゼンチン、ギリシャのように財政破綻することは絶対にありません。
藤井 聡
京都大学大学院工学研究科教授 元内閣官房参与
木村 博美
フリーランスライター
0 件のコメント:
コメントを投稿