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2022年6月6日月曜日
借金1220兆円でも日本の財政が「絶対破綻しない」驚きの理由 日本が財政破綻しない理由②
https://gentosha-go.com/articles/-/42153
日本の借金は過去最大の1220兆円に上りますが、日本は財政破綻しないといいます。自国通貨建てで国債を発行する限り、財政破綻はしない。さらに、日本銀行は「日銀特融」という制度で無担保・無制限の融資を行って預金者たちの預金を全額守ったりしています。元内閣官房参与の藤井聡氏が著書『なぜ、日本人の9割は金持ちになれないのか』(ポプラ新書)で解説します。
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1997年金融危機に日銀特融が発動された
■政府はいくらでも貨幣を供給できる
――政府がいくら借金しても破綻することはない、ということですが、そもそも政府が国債を発行しても、その国債を銀行が買ってくれなくなったらどうするんですか?
藤井 日本銀行は、普段の業務のなかで、市場に出回っている国債を売り買いしています。もしも、政府におカネを貸す銀行が減ってきて、国債の価格が不安定になってくれば、日本銀行は安定化を目指して市場で売られている国債を買っていく。そうすれば、あるいは「そうする」と公言するだけでも、国債の価格が安定化し、政府に対しておカネを貸す銀行、すなわち政府におカネを貸す人がいなくなっていく、という事態を回避することができます。
万が一、とんでもない天変地異などで国民が困窮し、税金が1円たりとも納入されなかったとしても、そして仮にそのとき政府が発行する国債を購入する民間銀行が一切なかったとしても、「最後の貸し手」である日本銀行が国債を購入して政府におカネを貸してくれます。この「最後の貸し手」という機能は法律でしっかりと定められていますし、先進諸国ならどこの国の中央銀行にもある当たり前の機能です。
――どんな事態になっても、最後は、日本銀行が国債を買って、政府におカネを必ず貸してくれるわけですね。
藤井 そうです。記憶に新しいところでは、バブル崩壊後、コスモ信用組合や北海道拓殖銀行、山一證券などいろんな金融機関が相次いで破綻したときに、日本銀行は、「日銀特融」という制度で無担保・無制限の融資を行って預金者たちの預金を全額守ったりしています。そうしなければ、日本経済が大パニックになるからです。それを踏まえれば、もしも政府が破綻の危機にさらされることがあるとしたなら、そのときに日銀特融を発動しないわけがない。
しかも、日本銀行は日本政府の子会社です。これは民間企業でも同じですが、親会社と子会社の間のおカネの貸し借りは、連結決算で「相殺」されます。つまり借金が存在しないことになるのです。驚かれるかもしれませんが、これは紛れもない事実です。一応、政府は日銀が保有する国債について利子を払い続けていますが、日銀の決算が終わると、「国庫納付金」として返還されています。
つまり国債の利子が、政府→日銀→政府と行って帰ってくる。要するに、実質的にいうと、政府が日銀からおカネを借りても利子がつかない、ってことになってるわけです。
ちなみに、アベノミクスと呼ばれる経済政策のなかで、日銀は年間80兆円もの国債を買い続けました。「預金取扱機関」が保有する国債が、「日本銀行」に移転されていったわけです。
こうなれば政府の負債は事実上、減少し続けたってことになります。なぜなら、預金取扱機関が保有する国債というのは、政府が過去に借りたおカネの借用証書ですが、それを政府の子会社である日本銀行が買い取るということは、実質的に「借金は棒引きされた」ことになるからです。
たとえばあなたが、隣のおじさんに100万円借りていたら借金ですが、その借用証書をあなたの(大金持ちで、かつ、絶対に別れることがないと決まっている)配偶者が買い取ってくれたら、その借金は実際上、事実上、帳消しになりますよね? それと同じように、日銀が国債を買い取れば、政府の借金は事実上、「帳消し」になるんです。
もっともシンプルな政府の資金調達の方法に「日銀直接引き受け」とか「ヘリコプターマネー」とか呼ばれているものがあります。これは、日銀が政府に資金を直接融資するという方法です。
日本銀行は、「銀行の銀行」であり、各銀行は日本銀行のなかに口座を持っています。その口座に入っている預金を「日銀当座預金」といいますが、これはちょうど、私たちが普通の銀行に「口座」を持っていて、そのなかに「預金」があるのと同じです。
銀行は、この日銀当座預金を引き出して現金に換えたり、銀行同士の支払いなどに使ったりしているわけです。そして政府もまた、日銀に口座を持っています。
「ヘリコプターマネー」の場合、政府が借用証書を書いて日銀に渡し、日銀はそれと引き換えに、政府の日銀当座預金にその金額を書き込みます。一応、「日銀が政府におカネを貸している」という体裁にはなっていますが、前にお話ししたように日銀は政府の子会社ですから、事実上の借金ではありません(正式の会計手続きでは、「連結決算」で「相殺」されるということになります)。
つまり、借金が棒引きされて存在しないことになります。だから結局は、ただ単に政府が「貨幣をつくり出し、それを使う」ということにほかなりません。
なぜ政府は借金を返さなくても大丈夫なのか
■政府の借金は返さなくてもいい!?
――ちょっと待ってください。政府の借金はないことになって、ただ単に政府がおカネをつくり出して、そのおカネを使う!? それが本当なら、誰も苦労しませんよね。先生がおっしゃる理屈はよくわかりますけど、そんなうますぎる話、すぐには信じられません。
藤井 そうかもしれませんね。普通、人からおカネを借りたら返さなくちゃいけないし、利子も払わないといけないのに、政府の日銀からの借金だけは特別だなんて、にわかには信じられないかもしれない……。
では、別の角度から説明しましょう。さっきは、日銀は政府の子会社だから親会社の子会社に対する借金は、借金じゃないんですよ、という話でしたが、親会社と子会社の間であろうが、借金は借金じゃないか、と素朴に感じる方もおられるかもしれません。仮に日銀は政府とは別の組織だと考えたとしても、日銀による政府に対する貸し出しは、私たち一般の国民が銀行や消費者金融からおカネを借りる、いわゆる「借金」とは全然違うんですよ。
第一に、日銀は政府に対して「貸したカネを耳をそろえて返せ!」という圧力はかけません。日銀はいくらでもおカネをつくり出せる存在ですから、貸したカネを返してほしい、という動機がそもそもないのです。日銀以外の存在にとっては、おカネは大変に貴重な代物ですが、日銀にとっておカネは別に貴重でも何でもない。なんといっても、おカネは「日本銀行券」であって、日銀が自らいくらでもつくり出すことができるのですから。
もちろん、借金の返済期日が来れば、政府は借りたおカネを返さなければなりません。でも、そのおカネを、政府はまた日銀から借りることができるんです(一般にこれは「借り換え」といわれます)。つまり10万円を1年間借りていたとしても、1年後にまた10万円を同じ人から借りる、というのを延々と繰り返すことができるわけです。そうなれば実際、その借りたおカネを返す必要が延々となくなります。それと同じことが、政府は日銀に対してできるわけです。
第二に、普通、借金すると利子を払わないといけませんが、さきほども指摘したように、政府が日銀からおカネを借りた場合、利子を払う必要がありません。これが、法律で定められています。
だから、あっさりいうと、日銀から政府がおカネを借りた場合、政府はその利子を払わなくてもいいし、元本そのものも延々と返さなくてもいいのです。返さなくてもいいし利子もない借金なんて、もう借金じゃないですよね。はっきりいって、「もらった」のと全く同じ。
なぜ、そんなふうに「日銀から政府への貸し出し」は、私たちの借金と違ってものすごく優遇されているのかというと、それはひとえに日銀が政府の子会社だからです。したがって、日銀が政府の一部だと考えても、そう考えずに独立の存在だと考えても、結局は、日銀から政府が借りたおカネは、いわゆる普通の「借金」としては考えなくてもいい、ということになるんです。
――なるほど……要するにそれって、ものすごく仲の良い親子がいて、子どもが親からおカネを借りて、一応親は「貸した」とはいってるけど、利子も取らないし、返せともいわない、というのと同じような話なわけですね。
藤井 まさにおっしゃる通り。そういうふうに考えてもらって構いません。ちなみにここまでお話しした内容は、経済学の現代貨幣理論、通称MMT(Modern Monetary Theory)という理論が前提としている「事実」です。この「事実」は、MMTというのが少し知られるようになったので一般の人も知るところとなりましたが、その遥か以前から、おカネについてある程度知っている銀行員や税理士、財務官僚なら、「当たり前の常識」として知っている事実なんですよ。
日本人は「税制破綻」という病にかかっている
■百年変わらない現実離れした経済学
――MMTって、少し前にアメリカで論争を巻き起こして、日本でも国会で取り上げられるなど話題になりましたよね。日本のマスコミは、「財政赤字なんか膨らんでもへっちゃらで、中央銀行に紙幣を刷らせれば財源はいくらでもある、というかなりの『トンデモ理論』である」とか「『異端』の経済理論」とか批判してましたけど。
藤井 MMTに基づく重要な主張のなかに、「通貨発行権のある国の政府支出には、絶対的な制限はない」というものがあるんですが、これが彼らには引っかかるようですね。
でも、「中央銀行からの政府の借金は、返済も利子も不要だから、実質的に借金じゃない。だから、政府はいくらでもおカネを自らつくり出すことができる」というさっきの話は、「通貨発行権のある政府支出には制限がない」といってるのと同じですよね。しかし多くの人々は、テレビや新聞で「政府は借金で破綻する!」という話を耳にタコができるくらい聞いているので、そんな事実は受け入れられない。
しかも、経済学者ですら、普通の人々と同じようにその事実を一向に認めようとしないのです。なぜなら、「現実の世界」は一般的な経済学が想定する世界とは全く異なるからです。
だけどそれは、ただ単に経済学者が想定する世界が、現実とは全く異なる「ファンタジー」の世界になってしまっているだけの話。実際、これまでの経済学の常識では説明できないようなことが、ここ20年ぐらいずっと起きまくっているんですよ。そこで、現代の貨幣の理論をきちんと考えようということで出てきたのがMMTです。要するに、おカネはおカネでも、「現代のおカネ」の理論なんです。
――一般的な経済学の常識ではわからないことって何なんですか?
藤井 政府が大量に借金すると、世の中からおカネが減って、金利(借りたときの利子)が高くなる、という常識が一般的な経済学にはあるんです。おカネが不足しているのに、おカネを借りようとする人がたくさんいると、金利が高くなるでしょう。でもバブル崩壊後の92年度から国債発行額がずーっと増えているんですけど、金利は反比例して減っている。
政府の借金がものすごく増えると、貨幣の信任がなくなって貨幣価値が暴落するという常識もあって、そのためにものすごくヤバいことが起こるといわれていたけれど、今、コロナ対策で各国が何百兆円と借金していながら、そんなヤバいことは全く起こっていないし、起こる気配、わずかな徴候すら全くない。
なかでも中国は借金の伸び率が尋常じゃないくらい膨らんでいるのに、ヤバくなるどころか、めちゃくちゃ成長している。これも経済学の常識では全く説明できない。こうしたことを説明する理屈が経済学の教科書には一切書いてないんです。
――どうしてなんですか?
藤井 経済学というのは、ものすごく古い歴史があって、百年以上前の貨幣のイメージで理論がつくられているんですね。それが全然更新されてこなかった。
物理学であれば、今も昔も関係ない。今も昔と同じように、りんごは木から落ちるでしょ。しかし、おカネの仕組みは時代と共に変わっているんですよ。だからそれに合わせて経済理論も変えなきゃいけなかったのに、何にも変えなかったんです! だから、今の経済の実態を、経済学で説明することが全くできなくなっている。たとえば昔、「金本位制」という仕組みがあったことを覚えています?
――はい。確か高校で習いました。金を担保にして通貨を発行する制度ですよね。さかのぼると、大昔の人々は物々交換で欲しいものを手に入れていた。でも、必ずしも欲しいものを手に入れられなかった。
たとえば、私が織物を差し出して、お肉と交換してもらいたくても、相手にそんな布切れは要らないよと断られたら、私はお肉を食べられない。それで、人々は誰もが欲しがるような価値あるものを持ちたいと思うようになった。それが金だったんですよね。その後、金は世界中で通用することになるんだけれど、持ち運びが大変だった。そこで、イギリスを皮切りに各国の中央銀行が、金庫にある金と同じ価値の貨幣を発行するようになった ――、そんな話ですよね。
藤井 そうですそうです。20世紀初頭ぐらいまではそうだった。日本政府が持っている金の量がこれだけだから、それと交換できるだけのお札を発行していたわけ。そうなると、おカネの量は一定ですよね。日本国内にこれだけのおカネの量しかないという場合は、政府が大量に借金すると、世の中のおカネが少なくなって、金利が高くなる。ここは、従来の経済学の常識と合っています。
しかし戦争や世界恐慌によって金本位制が崩れ、1930年代にはほとんどの国で廃止された。代わって採用されたのが管理通貨制度で、政府は金の保有量に関係なく、法律で定められた通貨制度に基づいて、お札を「好きなだけ刷っていい」ということになった。そこで、おカネの考え方を変えなくてはいけなかったのに、それをやらなかった。それからずっと、百年ぐらい間違えた世界の話を深めてしまったんですね。
――えーっ、誰も間違いに気づかなかったのですか?
藤井 ほとんどの経済学者が気づかないなか、イギリスの経済学者で官僚だったケインズだけは例外で、その間違いに気づいた。で、彼は正しいおカネの考え方に基づいて、今では「ケインズ経済学」と呼ばれる理論の体系をつくり上げた。
その後、彼の考え方はラーナーやミンスキーといった学者たちに引き継がれ、徐々に発展していって、今、ランダル・レイという学者たちによって「MMT(現代貨幣理論)」という名前で体系化されたんです。だから、MMTはぽっとでの怪しい理論なんかじゃなくて、ものすごく正統な歴史がある、伝統的な理論なんですね。
藤井 一般的な経済学者も、政府も世間も、「財政破綻」という病にかかっているのは、間違った「貨幣観」に毒されているからです。
藤井 聡
京都大学大学院工学研究科教授 元内閣官房参与
木村 博美
フリーランスライター
借金1220兆円の日本がギリシャと違って財政破綻しない理由 日本が財政破綻しない理由①
https://gentosha-go.com/articles/-/42000?per_page=1
新型コロナ不況への対応で、国の財政赤字が巨額に膨らんでいます。アルゼンチンやギリシャは財政破綻しました。日本の借金は過去最大の1220兆円に上ります。なぜ日本は財政破綻しないのでしょうか。元内閣官房参与の藤井聡氏が著書『なぜ、日本人の9割は金持ちになれないのか』(ポプラ新書)で解説します。
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日本の借金は過去最大の1220兆円に上る
■国民は財務省のつくり話にだまされている
――藤井先生、岸田総理は真っ先に数十兆円規模の経済対策を実施するとおっしゃっていましたが、大丈夫ですか? 日本はバブル崩壊後から、ずーっとひどい財政赤字なんですよね。政府も政治家も経済学者もマスコミも、「日本には大量の借金があって、このままなら破産する!」といい続けています。
さらに、新型コロナウイルス対策で赤字が膨らんで、2021年6月末時点では、「国の借金は過去最大の1220兆円、国民一人当たり992万円になる」と報道していました。だから政府は大金を出したくても出せないんじゃないですか?
藤井 いいえ、出す気になりさえすれば、出せます。彼らのいってることは、真っ赤なウソなんですよ。
――えっ、どこがウソなんですか?
藤井 全部。1から10まで。何もかも。どれだけ、この一連のウソにだまされている人が多いか。それがコロナ対策にも、大きな弊害をもたらしています。たとえば給付金にしても、政府が出そうと思えばまだまだ出せるんですよ。でも、文句が噴出しないのは、ほとんどの国民がこのウソにだまされているからです。
――10万円給付が決まったとき、私も友人たちも日本は財政難なのに構わないの? と心配したくらいでした。それでも私はしっかり給付金をいただきましたけど、友人のなかには遠慮して給付金の申請をしなかった人もいました。
藤井 すっかりだまされていますね。まず、「国の借金」という表現からして間違いで、正しくは「政府の負債」です。「国の借金」っていうと、私たち国民も借りているような錯覚に陥りますが、完全な間違い。そもそも「国」のなかにはいろんな人、主体がいます。私たち国民もいれば、いろんな会社もあります。
そして、それらとは全然別の存在として「日本政府」というものもあるわけです。マスコミなんかでいわれている「国の借金」とは、国でも国民でもなく、「日本政府の借金」のことなんですよ。日本銀行の資金循環統計でも、「政府の負債」と書かれています。「政府」が借りているのが「政府の負債」であって、「国の借金」でも「日本の借金」でも、ましてや「国民の借金」でもありません。
――それならなぜ、「国の借金1220兆円」とか「国民一人当たり992万円」などと喧伝するのですか?
藤井 詳しいことはおいおい説明していきますが、財務省は小泉純一郎政権のころから、何よりも「政府の負債」を減らすことに血道を上げているんですよ。なんといっても財務省は、政府という一つの組織の金庫番だからです。いわば彼らは、政府という法人の経理部さんなんです。日本国家「全体」のことを考えているのではなくて、単に自分が働く「政府」という組織の財布のことだけを考えている人たちなのです。
要するに、彼らは自分の組織のことだけを考えて、国民や国全体のことなんてな〜んにも考えず、新聞社や通信社、テレビ局の記者たちが常駐する財務省内の記者クラブ「財政研究会」を通じて、記者に資料を配り、政府の負債を「国の借金」と呼ばせて、国民感情をあおる。これが、財務省のプロパガンダ、つまり政治的な意図を持つ「宣伝」です。
記者は疑うどころか、新聞によっては政府の負債をわざわざ日本の人口で割って、「国の借金1220兆円、国民一人当たり992万円!」と見出しをつけたり、「日本は借金まみれで財政破綻する」などと、まことしやかに書き立てたりする。大半の政治家や経済学者も、口をそろえて「このまま借金が膨らむと日本は破綻する」と主張してきた。「嘘」とは「真実でないこと」という広辞苑の定義に従うなら、彼らはみんな、ウソつきなんですよ。
――そんな! いったい、どうしてそんなデタラメがまかり通っているのですか?
藤井 一言でいえば、財務省が天下を取っているからです。国会が持っているはずの予算決定権を実際は財務省が握っている。大雑把にいえば、「財政=政治」って側面がありますから、財政を抑えられると、政治家はやりたいことが何もできなくなるんです。
しかも、財務官僚は自分たちの主張を国会議員に繰り返し「ご説明」に上がります。国会議員の先生たちはたいてい財務省のいいなりです。さらに、財務省は自分たちに都合のいいことを唱える経済学者を集めています。つまり彼らは財務省のお先棒をかつぐ「御用学者」なんですよ。
そういう政治家や学者や記者たちの報道が世の中にあふれると、人のいい国民は、「どうにかして借金を減らさないと、日本はめちゃくちゃになる。将来世代にツケを回してはいけない。消費増税も仕方がないか」と思い込んでしまう。その結果、財務省の「増税路線」に抵抗することができなくなってしまうんですね。そうして、意図的につくり上げられた「財政破綻論」に、多くの国民がまんまとだまされてしまうわけです。
「円建て」国債の日本が財政破綻しない理由
■日本政府が財政破綻することはあり得ない
藤井 ご存知のように、日本の政府は「国債」を発行して、資金を調達しています。国債には「返済期限」が決められていて、政府はその期限が来たら利子をつけて、国債と引き換えにおカネを返済します。こう聞くと、まさに「借金」なのだから、その返済のときに政府の手元にそれだけのおカネがなかったら、「破綻」しちゃうじゃないか!? とみなさんは普通に考えるのだと思います。
しかし、政府が借りているのがドルやユーロではなくて「円」である限り、そんなことは絶対に起こらないのです。なぜなら政府はいつでも、どんなときでも、「円」であるならば、どれだけでも用立てることができるからです!
――えっ、どうしてそんな離れわざができるのですか?
藤井 理由を一言でいうなら、そもそも「円」を発行しているのは、他の誰でもない「政府」だからです。だから必要なときに、いくらでも「自分」で円を発行して、円を用立てることができる。
もうちょっと厳密にいうと、政府には「通貨発行権」があります。その権限を行使すれば、いくらでもおカネをつくり出すことができるのです、円である限りにおいて。
もっと具体的にいうなら、次のようになります。
まず、10円玉や500円玉などの硬貨は、文字通り政府が実際につくり出しています。だから、借金返済のときに500円玉を大量につくって返してしまうということも可能です。また、やろうと思えば、100万円玉、1000万円玉なんて硬貨を、政府が政府の権限を使ってつくり出し発行して返してしまう、ということもできるわけです。
一方、1000円札や5000円札、1万円札などのいわゆる「お札」は、正式には「日本銀行券」と呼ばれるのですが、その名が示しているように、「日本銀行」という日本の中央銀行がつくり出したものです。
この「日本銀行」というのは、普通の銀行と全然違って、「銀行の銀行」ともいわれるように銀行それ自体におカネを貸し付けるというスゴい権限を持っています。何よりスゴいのは、彼らが「おカネを自分で何もないところからつくり出して、そのつくり出したおカネを貸し出す」という行為です。わかりやすくいえば、「お札を刷って貸し出す」ということ。そもそも、そういうことができる仕組みになっているわけです。
で、お札をどれだけでも好きなだけつくり出せる日本銀行という存在は、実は、政府の「子会社」なんです。日本銀行は株式を東京証券取引所に上場しているのですが、株式の55%を保有しているのが日本政府です。しかも日本銀行法という法律の第四条には、政府から完全に独立した振る舞いをしちゃだめだ、ということも明記されています。
つまり、政府は子会社の日本銀行を使って貨幣をつくり出すことができる。これをしっかり、覚えておいてください。簡単にいえば、要するに「政府は、おカネをつくり出すことができる」ということなんです。
――へえ〜、初めて聞きました。
藤井 「財政破綻論」を信じ込んでいる人のほとんどは、この事実に気づいていません。だいたい「政府の借金」と「家庭の借金」を同じように考えてしまうことが間違いのもと。政府の財政は、家計とは全く違うのです。
当然ですが、私たち個人や民間の会社はおカネをつくることができませんよね。もし私たちが借金をしていたら、一生懸命におカネを稼ぐか、誰か別の人に頭を下げておカネを貸してもらうかして、返済しなくてはならない。しかし、政府にはその必要はありません。なぜなら、さっきからいってるように自分で貨幣を発行することができるからです。したがって、政府が借金で破綻することなど、あり得ないのです。
ちなみに、「日銀と政府は別の存在じゃないか、日銀は独立してるだろ!」という人もいますが、仮にそう考えるにしても、政府は子会社の日銀からいくらでもおカネを借りることができるので、破綻することなんてあり得ない。というわけで、結論は何ら変わりません。この点は、あとでもう少しお話ししますね。
ギリシャの政府の負債は「ユーロ建て」だった
■アルゼンチンやギリシャが破綻した理由
――でも、アルゼンチンやギリシャは財政破綻したじゃありませんか。だから日本も危ない、と思っている人は大勢いますよ。
藤井 全くの思い違いです。日本の国債は、自国通貨の「円」建てです。外国もごくわずか日本の国債を持っていますが、それも含めて円建てですから、政府の借金は「100%日本円建て」。
しかしアルゼンチンは、自国通貨ではない「アメリカ・ドル建て」国債を売って、外国から借りていたおカネを返済できなくなったために財政破綻に追い込まれたんです。その3年前、1998年にロシアも財政破綻していますが、同じく「アメリカ・ドル建て」の負債でした。アルゼンチン・ペソ建てでも、ロシア・ルーブル建てでもなかったのです。
2015年にギリシャの財政が破綻したのは、政府の負債がEUの共通通貨「ユーロ建て」だったからです。ユーロを発行できるのは、欧州中央銀行だけ。自国通貨発行権を持ち、「100%日本円建て」国債を発行している日本のように、政府がおカネをつくって借金を返すなどということはどうあがいてもできなかったわけです。
何度でもいいますが、政府が自国通貨建ての国債で破綻することは、事実上、あり得ません。歴史上、自国通貨建ての借金を返済できなくなった国は存在しません。
アメリカがドルで借金しても、中国が元で借金しても、日本が円で借金しても、返すときに政府の力でおカネを調達することができる。どんな国でも、政府が自分の国の通貨で借金している限り、政府はいともたやすくおカネを調達して返済することができるのです。
繰り返しますが、なんといっても中央政府は、その国の通貨を発行する権限、つまり通貨発行権を持っているのですから。自分で簡単におカネをつくり出して借金を返すことができるのに、借金で破産するなんてバカはいないでしょう。だから自国通貨建ての借金で破綻してしまったなどというマヌケな政府なぞ、存在するわけがないのです!
財政破綻論をつくり出した当の財務省ですら、ホームページにはっきりと、「日・米など先進国の自国通貨建て国債のデフォルトは考えられない」と書いています。この「デフォルト」というのは債務不履行を意味する言葉です。「国債の債務不履行は考えられない」ということは、要するに「日本政府が国債を発行してつくった借金を返せなくなって破綻することはあり得ない」ということなんですよ。
――えーっ、信じられない。きっと、デフォルトなんて書いても、国民は見ないだろうし、見たって意味がわからないだろうと高をくくってるんでしょうね。腹立つ〜。
藤井 財務省もそのように明確に公言しているのですから、自国通貨建ての国債を発行している日本政府が国債を発行してつくった借金を返せなくなって、ロシアやアルゼンチン、ギリシャのように財政破綻することは絶対にありません。
藤井 聡
京都大学大学院工学研究科教授 元内閣官房参与
木村 博美
フリーランスライター
イェール大名誉教授「"日本財政は破綻寸前"はウソと断言できる理由」
イェール大名誉教授「"日本財政は破綻寸前"はウソと断言できる理由」財務次官論文はフェイクニュース
財務官僚に騙されるな
日本の財政赤字は世界最悪な状況であるから、コロナ禍による経済活動の低下に対して政府の財政出動で国民を救済していては、政府は破産してしまう、とよく反対される。政府は長年、財政赤字の数字を喧伝し、多くの国民に加えて、経済学者でさえ財政危機を信じている。英語の経済の教科書にすら、日本経済の特徴について、政府の財政赤字が大きく取り上げられている。
「文藝春秋」11月号に、財務省の矢野康治事務次官は、日本の財政赤字(一般政府債務残高÷GDP)は250%を超えており、世界各国に比べて傑出して高い。コロナ禍で生活が苦しい人が発生している非常時であっても、給付金などの「ばらまき」は反対で、税収に対して歳出が上回る「借金」は許せない、という論文を発表した。まさに現役のトップ官僚が、分配という福祉重視を掲げる岸田内閣の基本路線を総選挙前に批判したため、同論文は注目を集めた。
借金ばかり強調して資産は隠蔽する
しかし、矢野次官の論文はいわばフェイクニュースである。矢野次官が言う、日本政府の財政赤字は世界最悪という根拠が、財務省もそのメンバーであるIMF(国際通貨基金)の統計を見ると、まったく正しくないことを示したい。
図は、世界の主要国38カ国の政府が持つ資産と負債のGDPに対する比率を示している。
「日本は借金漬け、財政破綻しそうだ」と財務省がいう根拠は、日本国民が毎年創出する付加価値であるGDPに比較して、国債残高が急増していることに基づく。確かに、図の◆で示す政府債務(GDP比)率は、ここに掲げた国で日本が際立って大きい。
しかし、企業や個人が借金しすぎるというとき、年収(厳密には異なるが国でいうGDP)だけに注目するであろうか。借金をするとき、バランスシート上は、債務を負っても同時に資産を持つということになる。図で示すとおり、日本政府は債務も大きいが、資産も大きい。
一方で、図の最も左に示すポルトガルは、資産も大きく保有しているが、債務が資産に比べてずば抜けて大きいので、GDPに比した債務の比率が高くなる。従って、確かにポルトガルは大債務国と言える。
財政の健全性は純資産で見る
日本は国債残高が大きいが、ポルトガルとは異なり、外貨などの金融資産を多く持ち、非金融資産、つまり公共の建物、港湾、道路、森林など実物資産も多く持つ。財務省は政府債務(GDP比)を比較して日本は破産寸前だというが、増税して権限を強くしたいがための詭弁と考えられる。
財政の健全性をより正確に測るには、政府の純資産(総資産から総負債を引いたもの)によって測られるべきなのである。図でいえば、日本の純資産はほとんどゼロであり、他国と比較しても健全と言える。
民間で例えて言えば、日本は多くのローンを借りて土地などの資産を多く持つお金持ちというにすぎず、「日本政府は破産寸前」とは言えない。「タイタニック号が氷山に向かって突進しているようなもの」などと、矢野次官は日本の財政状況を例えたが、誇大妄想の限りである。
正しい理解で洗脳から目覚めよ
財政均衡論者からの反論として、実物資産(金融資産以外の資産)を考慮することに対しては、例えば道路公団は道路を売れないという批判を聞く。しかし、有料道路からは道路料金の収入があり、国債の金利の資金はそれで賄える。「日本の国債残高は世界最悪であるから、増税してプライマリー・バランスを均等化せよ」という財務省、財政均衡論者の主張は、前提が間違っているのである。
ところが財務省は、この誤った理解のもとに、国民や経済学者、エコノミストに対して、「政府も民間主体と同じように財政収支を絶えず均衡化せよ」という論理を当然として議論を進める。
格差拡大税制許せない 消費税廃止で経済成長する国に 「預かり金」ではなく「対価の一部」
2023年10月から実施予定の消費税のインボイス(適格請求書)制度を巡って「消費税が免税事業者の懐に入っている」と「益税論」が噴き出しています。「消費税は『預り金』ではなく『対価の一部』」「消費税が日本経済の成長にストップをかけている」と訴えるのは、公認会計士・税理士の森井じゅんさんです。テレビやラジオ番組に出演し、消費税のまやかしを明らかにしています。「消費税の問題を解決しなければ、日本の失われた30年が40年、50年になる」と危機感を覚えて、消費税廃止を訴えています。
イメージと乖離
「人件費の割合が大きくて社会への貢献度の高い会社ほど、消費税の納税に苦しんでいる。(※4) 実際に試算すると、給料を減らせば、社会保険料も減って消費税の負担も減る。どうして、そうなるのか…」。
森井さんは2007年、アメリカから帰国して会計事務所で働くようになり、消費税の仕組みに疑問を感じるようになりました。一方、輸出企業からは「消費税還付はありがたいんだけど、これって実質、補助金だよね(※3) 」との声も。調べれば調べるほど「消費税の仕組みは根本から間違っている」との思いを募らせました。分かったことは「プロパガンダ(特定の考えを押しつけるための宣伝)的に広められてきた消費税のイメージと、実態としての消費税があまりにも乖離している」ことでした(図1)。その大きな一つが、「消費税は消費者が支払った『預り金』」というイメージです。しかし、森井さんは「消費税は『預り金』ではなく『対価の一部』」と断言します。
国税庁は当初、ポスターを使って消費税を「預り金」と宣伝していました。(※1) ところが、「消費税は『預り金』ではない」ことが裁判で示されました。この裁判は消費者グループが「消費税は事業者が消費者から預った税金なのだから、それを国に納めるのは事業者の義務」と訴えたもので、判決では「…消費税分は対価の一部としての性格しか有しないから、事業者が、当該消費税分につき過不足なく国庫に納付する義務を、消費者との関係で負うものではない」(東京地裁1990年3月26日、大阪地裁同年11月26日)と原告の主張が退けられ、判決は確定しました。
罪深い「益税論」
「国税庁は今でも『預り金的な』と、ずるい言葉を使っている。消費者が価格に上乗せして払っていると感じるのは、レシートにそう書いてあるからなんですよ」と森井さん。
110円のノートを例にすると―。「110円という価格は110円で売れるから110円と値付けされているだけ。売れなかったら105円にしてもいいし、100円で売っても構わない。ただ、事業者は売った金額の一部分を消費税だったことにしなければならない、というのが消費税の仕組み。つまり110円で売ったから、100円は本体価格、10円が消費税でしたね、100円で売ったらそのうち約9円が消費税でしたね、と。実際、取引価格は需要と供給と力関係で決まります。だから、立場の弱い側が負担を強いられる。消費税は格差拡大税制なのです」
「益税論」についても「消費税は『預り金』が前提の話で、『対価の一部』と考えれば、その発想は出てこない」と強調。「日本には約50種類もの税金があり、他にも免税点の制度があるけれど、益税だ丸もうけだ、と責める声が出るのは消費税だけ。そもそも免税点や簡易課税は、消費税の実務は煩雑すぎて中小企業が事務をこなすのは無理があるから。それがいつの間にか、『預り金』だから免税事業者はずるいと変えられた。本当に罪深いと思います」
輸出企業に還流
「消費税は社会保障のために必要」との意見についても「消費税は社会保障のために導入されたわけではない(※4)」と言い切ります。
世界で初めて付加価値税が導入されたのは、フランス(1954年)。貿易を自由化する流れの中で、自国の輸出企業に補助金を与えるために考え出されたもので、輸出企業への補助金といわれています。
湖東京至税理士が推算するように、日本でも自動車などの輸出大企業に毎年、1兆2千億円を超える莫大な輸出還付金が支払われています(昨年11月1日号1面既報)。
「消費税導入は『直間比率の是正』が目的で、一言でいえば、法人税を下げるためです。それがいつの間にか、社会保障のためと信じ込まされた。消費税は浅く広くといわれますが、実際は弱い立場の人が負担し、輸出大企業に還流する形になっている。社会保障のためは、そもそものコンセプトじゃなく、途中から建前上、付け加えられたもの」
しかし、国は「社会保障のために必要な財源」との姿勢を崩さず、さらなる増税をたくらんでいます。
「社会保障を人質に、これまで消費税が正当化されてきた。その結果、貧困化と国力の低下を経験してきたのが、この30年です。消費税は計算上、人件費へのペナルティーです。所得を減らす一方で、事業者への理不尽なコストアップを通じて官製インフレを起こす側面も。つまりは官製スタグフレーション(不況と物価上昇が同時進行)により経済を痛めつけてきた」と厳しい目を向けます。
中小事業者に酷
1200兆円を超える国の借金を心配する声がありますが、森井さんは「国の借金という言葉やイメージも、まやかしだらけ。今、心配しなければならないのは消費税やその他の間違った政策のせいで経済が成長せず、中小企業がつぶれて日本の供給能力が低下していること(※4)」と指摘します。
「消費税は海外では付加価値税と呼ばれています。付加価値とは人件費と利益の合計(図2)で、付加価値の総計がGDP(国内総生産)。GDPに税金をかけて経済が成長すると思いますか。人件費に税金をかけて所得が上がりますか。日本の未来を考えるならば、まずは消費税廃止です」
インボイス制度については「消費税が『預り金』という間違った建前を既成事実化するための道具」と批判。「インボイスは、それぞれの取引で消費税を建前上幾ら預かった、という証明をするもの。インボイス制度が実施されれば、発行できない事業者の多くが、さらに弱い立場に追いやられ、市場から追いやられるケースも増えるでしょう(※5)」と危惧する森井さん。
「私は消費税が払えなくて倒産した多くの事業者を見てきました。課税事業者になった途端、窮地に陥る事業者もいました。赤字でも納税義務を負う消費税は、事業者にとっては酷な税制です。まやかしだらけであることも許せない。消費税自体の問題点をもっと多くの人たちに知ってもらい、消費税の廃止につなげたい」
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